膝裏のふくらみ・腫れの原因は?――ベーカー嚢腫の正体と治療法

膝の裏の腫れやふくらみ、放っておいて大丈夫?
「膝の裏がなんとなくふくらんできた」
「押すと張った感じがある」
「正座や膝を曲げると違和感がある」
こうした症状の原因のひとつが ベーカー嚢腫(ベーカーのうしゅ) です。聞きなれない病名ですが、膝関節の病気に伴ってよく見られる変化です。
ベーカー嚢腫とは?
ベーカー嚢腫は、膝の裏側に「袋(嚢腫)」ができて、水(関節液)がたまった状態のことをいいます。
関節の中で炎症や負担がかかると関節液が増え、それが膝の後ろに押し出されて“水ぶくれ”のようにふくらみます。

なぜできるの?(発生原因とチェックバルブの仕組み)
ベーカー嚢腫は、単に「水がたまる」だけではなく、関節内と嚢腫のあいだに“チェックバルブ”のような仕組みがあるために起こります。
- 膝の裏には、半膜様筋腱と内側腓腹筋のすき間に小さな通路があります。
- 炎症で関節液が増えると、この通路を通って後ろに水が押し出されます。
- ところが、この通路は「逆流防止弁(チェックバルブ)」のようになっており、水は出ていくのに戻りにくい構造です。
そのため、膝の裏に水がたまり続け、袋のように膨らんでしまうのです。

どんな症状が出る?
- 膝裏のふくらみ・腫れ
- 張り感、重だるさ
- 膝の曲げ伸ばしの制限
大きさは日によって変わることがあり、症状がないまま経過することもあります。
診断
- 触診:袋状のふくらみを確認
- エコー検査:袋の中に水を確認
- MRI検査:半月板断裂や炎症の評価、嚢腫のチェックバルブ様の通路も描出可能

エコー検査で簡単に診断ができます。
治療法について
経過観察・保存療法
痛みが強くない場合は、まずは様子をみます。湿布や内服薬、リハビリで膝関節の炎症を抑えることで、嚢腫が自然に小さくなることもあります。
穿刺・注射
膝裏にたまった水を抜き、必要に応じて関節内にステロイド薬やヒアルロン酸を注射します。関節内の炎症を鎮め、水がたまりにくくする作戦です。症状は改善しますが、再発する場合もあります。
関節鏡手術
ベイカー嚢腫を切除し、チェックバルブを縫合することで嚢腫ができにくくなります。根本治療です。
まとめ
膝の裏の腫れやふくらみは、ベーカー嚢腫 の可能性があります。
嚢腫そのものは「悪い腫瘍」ではなく、膝の中で炎症があるサインです。
- 症状が軽ければ経過観察でOK
- 痛みや腫れが強いときは穿刺や注射
- 繰り返す場合は関節鏡手術
膝裏の腫れに気づいたら、まずは整形外科で原因を調べてもらうことをおすすめします。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会