関節リウマチの治療について、日本整形外科学会リウマチ医がわかりやすく解説いたします!
関節リウマチは、できるだけ早く見つけて治療を始めることが重要です。放っておくと、関節の痛みや腫れが悪化し、動かしにくくなったり、骨が変形してしまうこともあります。
関節リウマチとは?
関節リウマチは、体の免疫システムが誤作動を起こし、自分の関節を攻撃してしまう病気です。本来、免疫はウイルスや細菌と戦うものですが、この病気では間違えて自分の体を攻撃するため、関節に炎症が起こります。
特に手や手首、足の関節に症状が出やすく、痛みや腫れが続くのが特徴です。悪化すると、関節の形が変わったり、動かしにくくなることもあります。
※ご提供いただき次第、図を入れる。
関節リウマチの原因は?
関節リウマチが起こる原因はまだ分かっていません。ただ、以下のようなことが関係していると考えられています。
- 遺伝(家族にリウマチの人がいると、なりやすいことがある)
- 環境要因(喫煙やストレス、感染症などが引き金になる)
- 免疫の異常(免疫が誤作動を起こし、自分の体を攻撃してしまう)
最近の研究では、口の中の細菌や腸内の環境の変化も関係が指摘されています。
関節リウマチの発症
関節の内側には滑膜(かつまく)と呼ばれる組織があり、関節を覆っています。滑膜の役割は、関節の動きを滑らかにする潤滑液(関節液・滑液)を作り、軟骨を保護することです。
関節リウマチでは、この滑膜に炎症が起こり、次第に軟骨や骨へと炎症が広がっていきます。さらに、骨を溶かす細胞が活性化することで、軟骨や骨が破壊され、進行すると関節の変形につながります。
破骨細胞は、通常、古くなった骨を壊して新しい骨に作り替える重要な役割を担っています。しかし、関節リウマチではこの破骨細胞が過剰に働き、軟骨や骨を必要以上に破壊してしまいます。その結果、関節が変形し、動かしにくくなることがあります。
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関節リウマチの治療
関節リウマチの治療の目標は、日常生活に支障なく、痛みのない生活を送ることです。
また、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
近年、メトトレキサート(MTX)をはじめとする薬物療法や、生物学的製剤、JAK(ジャック)阻害薬の登場により、関節リウマチの治療法は大きく進歩し、患者さんの予後も大きく改善されました。
適切なタイミングで治療を開始すれば、寛解(薬の服用が不要な状態=ドラッグフリー)を目指すことも可能です。
関節リウマチは慢性的に炎症が続く病気であるため、長期的な治療が必要になります。
当院では、患者さんが安心して通院できるよう、体調の変化や治療内容に関するご相談をいつでも受け付けています。お気軽にご相談ください。
関節リウマチの治療薬
MTX(メトトレキサート)は、関節リウマチの第一選択薬として広く使用されている薬です。炎症を抑え、関節の破壊を防ぎ、病気の進行を遅らせる役割があります。
単独で使用することもありますが、他の薬剤や生物学的製剤と併用することで相乗効果が期待できることが確認されています。
MTX(メトトレキサート)の投与方法
MTXには、経口薬(飲み薬)と皮下注射薬があります。
- 投与方法・投与量・投与間隔は、患者さんの症状や薬の副作用に基づいて調整します。
- 皮下注射薬は「メトジェクト」と呼ばれ、週1回の皮下注射を行います。
MTX投与中の注意点
- 妊娠を希望する場合は、事前にご相談ください。
- MTX投与中は避妊が必要です。
- 妊娠を希望される方には、別の治療法を提案いたします。
- 副作用について
副作用は個人差がありますが、以下のような症状が見られることがあります。- 消化器症状(吐き気、胃腸障害、口内炎)
- 肝機能障害
- 免疫機能の低下による感染症リスクの増加
- 副作用の有無や感染症対策は定期的にチェックし、安全に治療を進めていきます。
服薬指導について
薬の服用前には、看護師が詳しく説明し、服薬指導を行います。わからないこと、不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。
メトジェクト(MTX皮下注射薬)
現在、リウマトレックスの皮下注射薬「メトジェクト」が登場しており、自己注射も可能です。
- シリンジタイプとペンタイプがあり、患者さんの好みに応じて選択できます。
- 効果は経口薬と同等とされており、消化管障害(胃腸の不調)が少ないといわれています。
葉酸(フォリアミン)について
葉酸(フォリアミン)は、MTX(メトトレキサート)の副作用を軽減するために服用するビタミンです。
葉酸は、細胞の成長や分裂を助ける重要な役割を持ち、正常な細胞の維持に必要なビタミンの一種です。
なぜ葉酸が必要なのか?
MTXは、葉酸の代謝を妨げる作用があるため、正常な細胞の維持が難しくなり、以下のような影響を及ぼすことがあります。
- 副作用が出やすくなる(口内炎、消化器症状、肝機能障害 など)
- MTXの治療効果が低下する可能性がある
この影響を抑えるため、MTX服用中は葉酸(フォリアミン)を併用します。
葉酸の摂取量について
ただし、葉酸を過剰に摂取すると、MTXの効果が弱まる可能性があります。そのため、決められた量を守って服用してください。
生物学的製剤(バイオ製剤)
生物学的製剤の登場により、休薬や寛解を目指すことが可能になりました。
生物学的製剤の役割
MTX(メトトレキサート)だけではリウマチの活動を抑えきれない場合、MTXと併用することで相乗効果が期待できる生物学的製剤もあります。
関節リウマチでは、滑膜の炎症が進行すると炎症性サイトカインという物質が大量に放出されます。これらのサイトカインが炎症細胞と結びつくことで、さらに炎症が広がるという悪循環が生じます。
生物学的製剤は、この炎症性サイトカインと結びつき、炎症の拡大を防ぐ働きをします。
投与方法について
- 注射薬として使用し、外来受診時に注射や点滴を行います。
- 自己注射が可能な製剤もあり、指導を受ければ自宅で自己注射が可能です。
生物学的製剤のメリット・デメリット
メリット
高い効果が期待できるため、リウマチの進行を抑えやすいとされます。
デメリット
感染症リスクがあるため、予防対策が必要です。
薬剤費が高額です。(当院では品質の高いバイオシミラー製剤を積極的に活用し医療費負担の軽減にも努めています)
バイオシミラー製剤は、新薬(先発品)と同等の有効性・安全性・品質が厳しい厚生労働省の承認を受けて使用されています。
JAK阻害薬について
JAK阻害薬は、比較的新しいリウマチ治療薬であり、リウマチ治療以外の疾患にも使用されています。
JAK阻害薬の特徴と生物学的製剤との違い
関節リウマチでは、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)が放出されることで炎症が広がります。
- 生物学的製剤は、すでに放出された炎症性サイトカインを直接ブロックすることで炎症を抑えます。
- JAK阻害薬は、それよりさらに上流の段階で働きます。つまり、炎症性サイトカインが放出される前に、炎症を起こす細胞内の伝達経路を遮断し、炎症シグナル自体を抑制します。
JAK阻害薬は生物学的製剤よりも、炎症の根本に作用する薬です。
JAK阻害薬の作用機序
JAK阻害薬は、炎症のシグナルを伝える「JAK(ヤヌスキナーゼ)」という酵素に結びつき、その働きを阻害します。その結果、炎症の発生を抑え、関節の腫れや痛みを軽減します。
投与方法
飲み薬のため、注射が不要で服用しやすいのが特徴です。
注意点(副作用)
JAK阻害薬は免疫系に直接作用するため、特に帯状疱疹の発症リスクが高まることが知られています。
そのため、JAK阻害薬を開始する際は、帯状疱疹ワクチンの接種を推奨しています。
JAK阻害薬を使用するケース
- MTX(メトトレキサート)の効果が不十分な場合
- MTX+生物学的製剤で効果が不十分な場合
- バイオ製剤が無効な場合
副作用チェックについて
当院では、副作用の早期発見と安全な治療のために、定期的な血液検査を実施しています。
血液検査の頻度
- 抗リウマチ薬の開始後1年間 → 8週間ごと
- 服用開始から1年以上経過し、病状が安定した場合 → 12週間ごと
画像検査(レントゲン検査)
年に1回、肺・頸椎・手足のレントゲン検査を行い、以下の項目をチェックします。
- 肺炎の有無
- 骨破壊の進行状況
定期的な検査を通じて、副作用のリスクを最小限に抑えながら、安心して治療を続けていただけるよう努めています。
関節リウマチの治療費について
関節リウマチの治療は長期間にわたるため、治療費の負担が気になる方も多いかと思います。
各薬剤の1か月あたりの費用例(2024年4月薬価改定)
※自己負担3割の場合
- MTX(メトトレキサート):週10mg × 4週 → 約360円
- 生物学的製剤
- エタネルセプト25mgBS:週1回1本 × 4週(4本) 約7,840円/月
- アダリムマブ40mgBS:2週間に1回1本 × 4週(2本) 約16,310円/月
- シムジア200㎎:2週間に1回注射 1本×4週(2本) 約37,090円/月
- JAK阻害薬(リンヴォック 15mg):毎日1錠 × 4週 約40,360円/月
治療費削減のための取り組み
当院では患者様の病状に応じて治療費の負担を軽減するためのさまざまな提案を行っています。
① 早期治療による費用負担の軽減
- MTXや生物学的製剤を適切に使用し、関節の炎症を長引かせないことが重要です。
- 早期に症状が落ち着けば、通院回数や血液検査の頻度を減らすことができます。
② コスト削減
ジェネリック医薬品やバイオシミラー製剤を積極的に採用し、一部の薬剤では約40%の費用削減が可能です。
③ 医療費支援制度の活用サポート
高額療養費制度をはじめ、傷病手当、身体障害者手帳の申請サポートも積極的に行っています。
関節リウマチ治療中の発熱・風邪について(Q&A)
Q1. リウマチ治療中は風邪にかかりやすいの?
A. はい、関節リウマチの治療では免疫を下げる薬を使用しているため、感染症にかかりやすくなります。軽い風邪でも、肺炎の可能性を考える必要があります。
Q2. 市販の風邪薬は使っても大丈夫?
A. はい、市販の風邪薬や抗生物質の使用は基本的に問題ありません。
Q3. 風邪を引いたときのMTX(メトトレキサート)の服用はどうしたらいい?
A. 症状の程度によって調整が可能です。
- リウマチ症状が軽い場合 → 通常の半分量に減らすなどの対応ができます。
- 38℃以上の高熱や強い症状がある場合 →MTXの服用を一時中止し、早めに医療機関へ受診してください。
Q4. 軽い風邪でも受診したほうがいい?
A. はい、軽い風邪でも肺炎の可能性を考慮し、受診をおすすめします。
Q5. どんな症状が出たらすぐ受診すべき?
A. 以下の症状がある場合は、できるだけ早く受診してください。
- 咳が止まらない
- 38℃以上の高熱
- 食欲不振
- 息苦しい
- 強い倦怠感(ひどくだるい)
MTXの服用は中止し、当院へ受診、またはご連絡ください。
他院を受診する場合は、大きい病院をおすすめします。
血液検査や胸部レントゲン、胸部CTで詳しく調べてもらいましょう。
体調不良時のMTX服用について
MTX(メトトレキサート)は、体調に応じて適宜調整が可能です。
体調が悪いときに無理に服用を続けないようにしてください。
特に以下のような場合は注意が必要です。
- 高齢の方
- 腎機能が低下している方
- 脱水症状がある場合
- 食事がとれない状態
このような状況でMTXを服用し続けると、血中濃度が過剰に上昇し、白血球が極端に減少することがあります。その結果、肺炎や敗血症を引き起こし、命に関わる危険な状態になる可能性があります。
体調不良を感じたら、どんな些細なことでも遠慮なくご相談ください。
リウマチ患者とワクチン接種の関係について
リウマチ患者は、自己免疫の異常や治療薬の影響により感染症のリスクが高まるため、ワクチン接種が重要です。ただし、ワクチンの種類や接種のタイミングには注意が必要です。ここでは、リウマチ患者が知っておくべきワクチン接種の基本情報と注意点を解説します。
リウマチ患者とワクチン接種の重要性
Q1.なぜリウマチ患者にはワクチン接種が必要なの?
A. リウマチ患者は免疫力が低下しやすく、感染症にかかるリスクが高いため、予防接種が推奨されます。
- 自己免疫の異常により、感染症に対する抵抗力が弱くなる
- MTX(メトトレキサート)や生物学的製剤などの免疫抑制剤を使用すると、感染リスクがさらに高まる
Q2. どのワクチンを接種すればいいの?
A. 以下のワクチン接種が特に推奨されます。
① インフルエンザワクチン
- リウマチ患者にとって大きなリスクとなる感染症の一つ
- 毎年秋〜冬の流行前に接種することで、感染予防・重症化防止が可能
② 肺炎球菌ワクチン
- 肺炎はリウマチ患者にとって特に注意が必要な感染症
- 一度の接種で5年以上の予防効果が期待できる
③ 帯状疱疹ワクチン
- 免疫機能が低下したリウマチ患者は帯状疱疹のリスクが高い
- 50歳以上の方に接種が推奨されている
- 生ワクチンだけでなく、不活化ワクチンも登場し、免疫抑制剤を使用していても接種可能になりました。
Q3. リウマチ患者はどのワクチンでも接種できるの?
A. ワクチンには「生ワクチン」と「不活化ワクチン」があり、リウマチ患者には不活化ワクチンが推奨されます。
リウマチ患者さんに実施使用できる予防接種の種類
種類 | 特徴 | リウマチ患者の接種可否 |
生ワクチン | 弱毒化された病原体を使用 | 免疫抑制剤使用中は接種不可(例:風疹・麻疹・水痘ワクチン) |
不活化ワクチン | 病原体を殺して使用 | 接種可能(例:インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹ワクチン) |
リウマチ患者さんは、生ワクチンは避け、不活化ワクチンまたはmRNAワクチンを選ぶのが基本です。ワクチン接種を検討する際は、医師と相談のうえ、適切なタイミングで接種しましょう!
予防接種のタイミングと副作用
Q. 免疫抑制剤を使っているけど、いつワクチンを接種すればいいの?
A. 免疫抑制剤の影響を受けにくいタイミングを選ぶことが大切です。
- 治療開始前にワクチン接種を行うのが理想
- すでに治療中の場合は、医師と相談のうえ、服薬のタイミングを調整しながら接種しましょう
Q. ワクチンの副作用は大丈夫?
A. 一般的な副作用(発熱・倦怠感など)は通常数日で改善しますが、強く出る場合もあるため、医師に相談しましょう。
免疫抑制剤使用中のワクチン接種のポイント
Q. 免疫抑制剤を使用している場合、何に気をつけるべき?
A. 以下のポイントを意識してください。
- 医師と相談しながら、適切な接種計画を立てる
- 自己判断で接種しない(免疫抑制剤の影響を考慮する必要があるため)
- ワクチンの種類を確認する(生ワクチンは基本的にNG)
ワクチン接種以外の感染予防対策
Q. ワクチン以外にできる感染対策は?
A. ワクチン接種に加えて、以下の対策を心がけるとより安心です。
① 手洗いや消毒の徹底
外出後や食事前の手洗い・アルコール消毒を徹底しましょう。
② 栄養バランスの良い食事をとる
ビタミンC・D、亜鉛を意識して摂取し、免疫力を維持しましょう。
③ 適度な運動
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かしましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. ワクチンは必ず受けるべき?
A. 推奨されていますが、必須ではありません。リウマチ患者さんは感染リスクが高いため、医師と相談しながら適切なワクチンを選択しましょう。
Q. 生物学的製剤を使用しているけど、どのワクチンを接種すればいい?
A. 生ワクチンの接種が制限されるため、不活化ワクチン、mRNAワクチンである下記のワクチン接種を推奨いたします。
① インフルエンザワクチン
②肺炎球菌ワクチン
③ 帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)
COVID-19ワクチン(mRNAワクチン)も接種しておくとよいでしょう。
Q. ワクチンの副作用が心配です
A. 副作用は通常軽度ですが、リウマチ患者さんの場合、強く出る場合もあるため、医師に相談しながら接種を決めましょう。
Q. ワクチンの接種するタイミングについて教えてください。
Q. インフルエンザワクチン接種時のMTX(メトトレキサート)はどうしたらいいですか?
A. インフルエンザワクチン接種後は、リウマチの病勢が許せば、2週間MTXを中断することが推奨されます。 MTXを一時的に中断することで、ワクチンの効果があり、十分な免疫が得られやすいためです。 事前に医師と相談し、体調や治療状況に応じた適切な対応を決めましょう。
(日本リウマチ財団 https://www.rheuma-net.or.jp/senmon/jrfn/268/)
Q. 他のワクチン接種時もMTXを中断する必要があるか?
A. いいえ、肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)などの非生ワクチンは、MTXを継続しながら接種可能です。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会