痛みがない肩腱板断裂とは
肩の腱板が断裂しているにもかかわらず、痛みや動きの制限がほとんどない状態を指します。
特に50歳以上の中高年では、加齢による自然な変化として起こることが多く、肩の機能を保ったまま生活できる場合もあります。
ただし、放置すると断裂が進行し、肩の機能が低下するリスクがあるため注意が必要です。
主な特徴
- 肩の痛みがない、または違和感程度
- 日常生活に支障がない(腕を上げられる)
- 50歳以上に多くみられる
- 進行すると痛みや動きの制限が出ることがある
💡「昔は大丈夫だったのに、最近急に痛くなった」という場合、
無症候性から有症候性(痛みを伴う断裂)に変化している可能性があります。
注意したいサイン
- 何年も問題なかったのに、急に肩が痛くなった
- 転倒や重い物を持ったあとに痛みが出た
- 肩を動かすと「ゴリッ」とした違和感がある
こうした場合、腱板断裂が進行していることがあります。
早めの検査をおすすめします。
主な原因
- 加齢による腱の変性(40〜50代から変化が始まる)
- 肩の使いすぎ(野球・テニス・重労働など)
- 血流の低下(腱板は血流が少なく修復が遅い)
- 転倒・外傷(もともとの小さな断裂が悪化)
年代別の肩腱板断裂の発生頻度
| 年代 | 発生率 | 備考 |
|---|---|---|
| 50歳以上 | 約20〜30% | 加齢による初期変化 |
| 60歳以上 | 約50% | 2人に1人が腱板断裂あり |
| 80歳以上 | 約80% | 多くの人に腱板損傷を認める |
治療方針
無症状の場合、手術は必要ありません。
多くは定期的な経過観察と筋力維持で問題なく生活できます。
🔹 保存療法(痛みがない場合)
- 1年ごとの定期検査(MRI・エコー)
- 肩の筋力トレーニング(腱板周囲筋・肩甲骨筋群)
- 肩のストレッチ(可動域の維持)
- 無理な動作や過度の負担を避ける
💪 リハビリのポイント
- 肩甲骨の動きを意識した運動
- 三角筋・僧帽筋など周囲筋のバランスを整える
🔹 痛みが出た場合の治療
無症候性でも、炎症や進行により痛みが出ることがあります。
その際は以下の治療を行います。
💉 注射・薬物療法
- NSAIDs(鎮痛薬)
- ヒアルロン酸注射(関節の動きをなめらかに)
- エコーガイド下ハイドロリリース(神経・筋膜の癒着を改善)
- 簡易動注治療(もやもや血管を減らして炎症抑制)
🧘♀️ リハビリテーション
- 可動域を保つストレッチ
- 筋力低下を防ぐ運動指導
🔹 進行した場合の手術治療
痛みや動きの制限が強い場合には、以下の手術が検討されます。
- 関節鏡視下腱板修復術(断裂部を縫合)
- 筋腱移行術(腱が縮んで縫合できない場合)
- リバース型人工肩関節置換術(重度機能障害時)
予防とセルフケア
- 肩甲骨をよく動かすストレッチ
- 軽い筋トレ(チューブ運動など)で筋力維持
- 冷え対策・血流改善(入浴・温熱)
- 年1回のMRIまたはエコー検査
定期的に肩の状態をチェックすることで、
「無症状」から「痛みを伴う状態」への移行を防ぐことができます。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会

