肩腱板断裂とは
肩のインナーマッスル(腱板)が傷ついたり、切れたりすることで、痛みや動きの制限が起こる病気です。
スポーツや転倒、または加齢による変化で起こることが多く、四十肩・五十肩と似た症状を示すこともあります。
主な症状
- 腕を上げると痛い
- 肩の力が入りにくい
- 夜にズキズキ痛みが強く、眠れない
💡症状が長く続く場合は、腱板断裂の可能性があります。
エコーやMRIでの正確な診断が重要です。
腱板とは?
腱板は、肩の深い部分にある4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の総称です。
これらが肩の安定性とスムーズな動きを支えています。
腱板が傷つくと、肩の動きが悪くなり、痛みや「腕が上がらない」状態になります。

右肩を上から見た図です。腱板のうち、棘上筋腱に穴があいています(全層断裂)
腱板断裂の種類
🔹 部位による分類
1️⃣ 棘上筋の断裂(最も多い) 一番上の腱
- 腱板断裂の90%以上を占める
- 肩を横に上げる動作(外転)が難しくなる
- 夜間痛が出やすい
2️⃣ 棘下筋・小円筋の断裂 背面の腱
- 腕を外にひねる(外旋)動作が困難
- 肩の後方に痛みを感じやすい
3️⃣ 肩甲下筋の断裂 肩の前面の腱
- 腕を内側に回す(内旋)動作が難しい
- 上腕二頭筋腱の脱臼を伴うこともあります
🔹 断裂の程度による分類
部分断裂(Partial tear)表面の擦り切れ
腱の一部だけが傷ついており、完全には切れていない状態。
- 肩の動きは比較的保たれている
- 40歳以上に多い
- リハビリや注射などの保存療法で改善することが多い

完全(全層)断裂(Full tear) 穴が開いた状態
腱が完全に切れて、関節と滑液包がつながった状態。
- 腕がほとんど上がらない
- 加齢や転倒で起こることが多い
- 放置すると断裂が広がり、修復が難しくなる

完全断裂の重傷度:穴の大きさと穴があいた腱の本数で決まる
| 分類 | 断裂サイズ | 特徴 |
|---|---|---|
| 小断裂 | 1cm未満 | 痛みは軽度、保存療法で改善することも |
| 中等度断裂 | 1〜3cm | 多くは手術が必要 |
| 大断裂 | 3〜5cm | 可動域制限が強く、縫合が必要 |
| 広範囲断裂 | 5cm以上、または複数の腱が断裂 | 機能低下が大きく、手術や人工関節が必要な場合も |
治療法
治療は、断裂の程度と生活の支障の度合いによって異なります。
軽症では保存療法を、重症では手術を検討します。
🔹 部分断裂(腱板の擦り切れ)の治療
保存療法(手術なし)
- 安静・肩への負担を減らす
- 薬物療法(消炎鎮痛薬・湿布)
- ヒアルロン酸注射・ステロイド注射
- エコーガイド下ハイドロリリースで神経・筋膜の癒着を改善
- 簡易動注治療で炎症や痛みを抑える
- リハビリテーション(肩甲骨・インナーマッスルの強化)
💉 バイオセラピー(PFC-FD療法)
自分の血液から成分を抽出し、傷ついた腱の修復を促す新しい治療法です。
手術が検討されるケース
- 3〜6か月保存療法を行っても改善しない
- 若年者やスポーツ選手で強い痛みが続く場合
🔹 完全断裂(穴が開いた場合)の治療
小〜中等度断裂(1〜3cm)
- 多くは関節鏡視下腱板修復術が行われます。
- 低侵襲で回復が早く、手術翌日からリハビリ開始することも可能。
大断裂・広範囲断裂(3cm以上)
- 腱が縮んでいる場合、筋腱移行術(広背筋などを移植)
- 70歳以上で重度の場合は、リバース型人工肩関節置換術で三角筋を使って肩を動かせるようにします。
🔹 手術後のリハビリの流れ
1️⃣ 術後4〜6週間:三角巾で固定
2️⃣ 約2か月後:可動域訓練開始
3️⃣ 3か月以降:筋力トレーニング開始
4️⃣ 約6か月で日常生活がスムーズに
保存療法と手術療法の比較
| 断裂の程度 | 保存療法 | 手術療法 |
|---|---|---|
| 部分断裂 | NSAIDs、注射、リハビリ | 関節鏡デブリードマン・部分縫合 |
| 小断裂(1cm未満) | 保存療法を試すことも | 関節鏡下腱板修復術 |
| 中等度断裂(1〜3cm) | 一部の高齢者で保存療法も可 | 関節鏡下修復術が基本 |
| 大断裂(3〜5cm) | 難しい | 筋腱移行術などを検討 |
| 広範囲断裂(5cm以上) | 機能が保たれていれば保存も可 | 移行術または人工肩関節置換術 |
症例紹介(60代男性)
転倒で左肩を受傷。MRIで腱板小断裂と診断。
ステロイド注射・ヒアルロン酸・リハビリで痛みが改善。
3か月後には腕が20°→180°まで挙上可能となり、無症候性腱板断裂の状態へ。
💬「急性期の腱板断裂でも、適切な保存療法で回復できる」
—— あきらめずに治療を続けることが大切です。
まとめ
- 部分断裂は保存療法が基本。痛みが続く場合は手術も検討。
- 完全断裂でも小〜中程度なら関節鏡手術で修復可能。
- 大断裂や高齢者では、筋腱移行術や人工肩関節も選択肢。
- 放置すると断裂が進行するため、早期診断・早期治療が重要です。
📍 津市 中村整形外科皮フ科
MRI・エコー完備/理学療法士常駐
エコーガイド下注射・ハイドロリリース・簡易動注療法・バイオセラピー(PFC-FD)対応
👉 肩の診療予約はこちら
関連記事

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会

