肩の後ろが痛い方へ ― 腋窩(えきか)神経の痛みを知っていますか?

肩の後ろの痛み、あきらめていませんか?
「肩の後ろがズキズキ痛む」「夜寝ているときに痛みで目が覚める」「ヒアルロン酸注射をしても良くならない」
こうした肩の症状で悩んでいる方は少なくありません。
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)や腱板損傷と診断されることが多いですが、実はわきの下をはしる腋窩神経(えきかしんけい)が原因になっているケースがあります。
腋窩(えきか)神経とは?
腋窩神経は、首から出た神経が腕に向かう途中で枝分かれした神経で、肩関節の後ろを通っています。
役割は大きく分けて2つあります。
- 運動:腕を横や後ろに持ち上げる「三角筋」や、肩の安定性に関わる「小円筋」を動かす
- 感覚:肩の外側から後ろにかけての皮膚の感覚を司る
この神経が圧迫されると、肩の後ろの痛み、力の入りにくさが出てきます。
右肩を後ろから見た図:腋窩神経(黄色)は筋肉と骨で囲まれた狭いスペースを走行している。

神経が締め付けられる「絞扼(こうやく)性神経障害」とは?
「絞扼(こうやく)」とは「締め付けられる」という意味です。
腋窩神経が、ある特定の動きで筋肉や靭帯、周囲の組織でギュッと圧迫されると、神経がうまく働かなくなり痛みが出てしまいます。
例えるなら、電気コードの一部が狭い場所で踏まれてしまい、信号がうまく伝わらなくなっているような状態です。
腋窩(えきか)神経障害の症状
- 肩の後ろから外側にかけての痛み
- 夜になるとズキズキして眠れない
- ヒアルロン酸など関節内注射をしても効果がない
- 腕を持ち上げるときに力が入りにくい
- 肩の後ろを触ると感覚が鈍い
「四十肩だと思っていたけど、何か違う気がする」という場合、この障害が隠れていることがあります。
診断のポイント
腋窩神経障害は、実はMRI検査では原因をつかめないのが特徴です。
当院では以下の診断方法を重視しています。
- 丁寧な触診
肩の後方を押さえて痛みが再現されるか確認します。 - 筋力の評価
- エコー(超音波)検査
神経の走行をエコーで観察し、エコーガイド下で神経をリリース(解放)すると痛みが消失すれば確定診断です
👉 画像よりも「触診」と「エコー評価」が重要な病気なのです。
治療方法 ― リリース注射
腋窩(えきか)神経障害に対しては、リリース注射という治療が有効です。
リリース注射とは?
- エコーで神経を映し出しながら、その周囲に薬液を注射する
- 圧迫されている神経を“解放”し、炎症や締め付けを和らげる
- 治療時間は約30秒で、体への負担が少ない
「リリース」という言葉通り、締め付けられた神経をゆるめてあげる治療です。
実際の施術動画もありますので、ご覧いただくと安心していただけると思います。
他の治療で良くならない方へ
- 「ヒアルロン酸やステロイドの関節内注射をしても全く効果がない」
- 「リハビリやストレッチをしても肩の後ろの痛みが続く」
- 「夜の痛みで眠れず、日常生活に支障がある」
こうした場合は、腋窩(えきか)神経障害を疑う必要があります。
まとめ
肩の後ろの痛みは四十肩や腱板損傷だけが原因ではありません。
腋窩(えきか)神経の絞扼(こうやく)性神経障害は、MRIに写りにくく見逃されやすい病気ですが、エコーと丁寧な触診で診断でき、リリース注射で改善が期待できます。
👉 「肩の後ろがズキズキして眠れない」「注射をしても良くならない」そんな方は、一度腋窩(えきか)神経障害を疑ってみてください。当院では診断から治療まで対応しています。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会