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若い女性に多い「鉄欠乏性貧血」と「関節炎」の関係とは?

若い女性に多い「鉄欠乏性貧血」と「関節炎」の関係とは?

はじめに

「手指の関節が腫れて痛い」「朝起きると指がこわばる」――こうした関節炎の症状で整形外科を受診される若い女性は少なくありません。診察で血液検査をすると、鉄欠乏性貧血が同時に見つかることがあります。

「関節痛と貧血がどう関係するのか?」と不思議に思う方も多いでしょう。本記事では、鉄欠乏性貧血と関節炎の関係を、一般の方にもわかりやすく解説します。


鉄欠乏性貧血とは?(基礎知識)

鉄欠乏性貧血は、体に必要な鉄分が不足することで起こる最も一般的な貧血です。鉄は血液の中で酸素を運ぶ「ヘモグロビン」をつくる材料であり、不足すると全身が酸素不足に陥ります。

鉄欠乏性貧血の症状

  • 疲れやすい、だるい
  • 顔色が悪い
  • 動悸や息切れ
  • めまい、立ちくらみ
  • 爪が割れやすい

特に若い女性は月経や食事制限(ダイエット)などで鉄不足になりやすいため、鉄欠乏性貧血を起こすリスクが高いのです。


鉄欠乏性貧血と関節炎・関節痛の関係

1. 酸素不足が関節に影響する

鉄が不足すると酸素を運ぶ力が弱まり、関節や筋肉の組織が酸素不足(低酸素状態)になります。酸素不足は細胞のストレスとなり、炎症を引き起こす物質を増やして、関節痛や関節炎の原因になることがあります。

2. 免疫バランスの乱れ

鉄は免疫機能を保つためにも重要です。鉄が不足すると免疫の調整がうまくいかず、炎症が長引きやすくなります。その結果、鉄欠乏性貧血が関節炎を悪化させる可能性があるのです。

3. 関節リウマチとの関係

関節炎の代表的な病気が関節リウマチです。リウマチは自分の免疫が関節を攻撃してしまう自己免疫疾患で、特に手指や手首の関節が腫れて痛むのが特徴です。

リウマチ患者さんの約40〜70%に貧血が合併するとされており、その多くが鉄欠乏性貧血や炎症に伴う貧血です。つまり「関節炎+鉄欠乏性貧血」が同時にある場合、リウマチを疑うサインになることがあります。


リウマチとはどんな病気?

  • 免疫の異常で関節に慢性的な炎症が起こる病気
  • 女性に多く、20〜40代で発症することもある
  • 朝の手のこわばりや左右対称の関節炎が特徴
  • 進行すると関節の変形や日常生活の制限につながる

リウマチは早期に発見して治療を始めれば、関節破壊を防ぎ、関節痛を抑えることができます。貧血がリウマチに合併することも多く、鉄欠乏性貧血がリウマチの発見につながることも少なくありません。


整形外科での検査と診断

関節痛や関節炎に鉄欠乏性貧血が合併している場合、整形外科では以下の検査を行います。

  • 血液検査
    ヘモグロビン、鉄、フェリチン(貯蔵鉄)、炎症反応(CRP、赤沈)
  • リウマチ関連検査
    リウマチ因子、抗CCP抗体など
  • 画像検査
    X線やエコーで関節の炎症や破壊の程度を確認

これらの検査によって、鉄欠乏性貧血が単独の問題なのか、それとも関節リウマチなどの病気に関連しているのかを判断します。


若い女性に「貧血+関節痛」があったら?

「疲れやすい」「顔色が悪い」などの貧血症状に加えて、

  • 指や手首が腫れて痛い
  • 朝に手がこわばる
  • 関節が左右対称に痛む

といった症状がある場合は、鉄欠乏性貧血と関節炎の関連を調べるために血液検査が必要です。

早期に原因を突き止めれば、鉄剤補充や炎症治療によって症状を改善でき、関節破壊や慢性化を防ぐことが可能です。

鉄欠乏性貧血と食事療法

鉄欠乏性貧血の治療は、医師の指導のもと鉄剤を使うことが一般的ですが、毎日の食事改善もとても大切です。

鉄を多く含む食品

  • レバー、赤身肉、カツオ、マグロ(ヘム鉄で吸収率が高い)
  • ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品(非ヘム鉄)

吸収を助ける栄養素

  • ビタミンC(柑橘類、いちご、ピーマンなど)
    → 非ヘム鉄の吸収を助けます
  • たんぱく質(肉、魚、卵)
    → 鉄の利用効率を高めます

注意が必要なもの

  • コーヒーや紅茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げるため、食後すぐの摂取は控えるのが望ましいです。

食事だけで十分な鉄をとるのは難しい場合も多いため、必要に応じて医師が鉄剤を処方します。


まとめ

  • 鉄欠乏性貧血は若い女性に多い病気で、疲れやすさや顔色の悪さだけでなく、関節痛や関節炎とも関係があります。
  • 鉄不足による酸素不足や免疫の乱れが炎症を引き起こすメカニズムが知られています。
  • 関節炎の代表である関節リウマチは貧血を伴いやすく、診断のきっかけになることもあります
  • 「関節が腫れて痛い」「貧血を指摘された」場合は、早めに整形外科やリウマチ科で検査を受けましょう。

参考文献

  1. Weiss G, Goodnough LT. Anemia of chronic disease. N Engl J Med. 2005;352:1011-1023.
  2. Zhuo Q, et al. Iron metabolism and arthritis. Front Immunol. 2024;15:11268821.
  3. Eshmurzaeva Z, et al. The Incidence of Anemia in Patients with Rheumatoid Arthritis. J Adv Med Med Res. 2016;18(9):1–9.
  4. Courbon G, et al. Anemia predicts radiographic progression in early rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis. 2013;72:851–856.
中村 公一

執筆者中村 公一

院長 / 整形外科専門医

親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。

経歴
津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
保有資格
医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
所属学会
日本整形外科学会 / 日本関節病学会