膝の裏の痛み― STB滑液包炎とは?

膝の裏に痛みや腫れを感じたとき、よく知られているのは「ベーカー嚢胞」ですが、同じように膝窩部(膝の裏側)に痛みを起こす疾患に STB滑液包炎(半膜様筋脛骨滑液包炎) があります。
あまり一般的に知られていませんが、整形外科では膝痛の鑑別診断として重要な疾患です。今回はSTB滑液包炎の原因・症状・診断・治療法について解説します。
STB滑液包とは?
- STB(semimembranosus–tibial bursa)滑液包 は、膝窩内側にある滑液包のひとつです。
- 半膜様筋腱と脛骨内側後方の間に位置し、膝の屈伸運動を円滑にするクッションの役割を果たしています。
- 膝関節内と交通していることがあり、関節液が流入することで膨らみを形成し、ベーカー嚢胞と混同されることも多いです。
STB滑液包炎の原因
STB滑液包炎は、滑液包内に炎症や過剰な滑液貯留が起こることで発症します。主な原因は以下の通りです。
- 変形性膝関節症
- 半月板損傷
- 膝の使い過ぎ(スポーツや立ち仕事)
- 関節リウマチなどの炎症性疾患
症状
- 膝の裏(特に内側)の鈍い痛み
- 屈伸時の突っ張り感や可動域制限
- 膝窩内側の腫れ・しこり
- 長時間歩行やスポーツでの痛み増悪
診断
- エコー(超音波)検査、触診にて圧痛のチェック
- MRIで半月板損傷やOA変化などの背景疾患を精査
当院での治療の流れ
STB滑液包炎は多くの場合、保存療法で改善が期待できます。
当院では次のような流れで治療を行っています。
- 穿刺・注射による痛みの軽減
- ステロイド、局所麻酔、ヒアルロン酸を注射し痛みの軽減がみられるかチェック
- 注射により炎症や腫れが軽減すると、診断は確定です。
- リハビリテーション開始
- 痛みが落ち着いた段階でリハビリに移行します。
- 半膜様筋を中心としたハムストリングのストレッチ、下肢筋力トレーニングを行い、膝関節への負担を減らします。
- 正しい関節の動きを取り戻すことで、再発予防にもつながります。
- 基礎疾患の治療
- 変形性膝関節症や半月板損傷など、背景にある膝疾患に対しても適切な治療を継続します。
まとめ
膝の裏の痛みの原因にはさまざまなものがありますが、STB滑液包炎はその代表的な疾患のひとつです。
当院では、注射で炎症と痛みを抑え、その後リハビリで関節機能を回復させるというステップで治療を行っています。
膝裏の痛みや腫れでお困りの方は、自己判断せずに整形外科での検査・治療を受けていただくことをおすすめします。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会