子どもの肘を守るために知っておきたい「野球肘」と投球制限

野球をがんばる小中学生にとって、「肘の痛み」はとても身近なトラブルです。
特に投手や捕手は投球数が多くなりやすく、成長期の肘に大きな負担がかかります。
今回は、野球肘を防ぐための投球制限について、整形外科の立場からわかりやすく解説します。
野球肘とは?
「野球肘」とは、野球の投球動作によって起こる肘の障害の総称です。
代表的なものには以下があります。
- 上腕骨内側上顆炎(内側の靱帯や成長軟骨の障害)
- 離断性骨軟骨炎(肘の軟骨・骨が壊れる病気)
- 外側や後方のインピンジメント
放っておくと、成長軟骨に後遺症を残したり、将来のスポーツ活動に影響する可能性もあります。
投球制限の目安(日本の学会より)
日本臨床スポーツ医学会や日本整形外科学会では、以下のような制限を提唱しています。
- 小学生
・1日 50球以内
・1週間 200球以内
・登板間隔は2日以上 - 中学生
・1日 70球以内
・1週間 350球以内
・登板間隔は2日以上 - 年間の制限
・100イニング以内
・少なくとも2〜3か月は「投球を完全に休む期間」をつくる
米国の基準「Pitch Smart」とは?
メジャーリーグとUSA Baseballがまとめた「Pitch Smart」という基準もあります。
こちらは年齢ごとに1日の球数と必要な休養日が細かく決められています。
- 11〜12歳:1日85球以内、投球後は球数に応じて1〜4日の休養
- 13〜14歳:1日95球以内
世界的にも「年齢に応じた球数制限と休養の徹底」が共通の考え方になっています。
保護者・指導者が気をつけるポイント
- 「試合」だけでなく、キャッチボールやノックも投球数に含める
- ピッチャーとキャッチャーの兼任は避ける
- 小学生では変化球を控える(肘への負担が大きい)
- 痛みが出たら投球を中止し、整形外科で相談する
まとめ
投球制限は「肘を守るためのルール」です。
一時的に球数を増やせば勝てる試合もあるかもしれません。
しかし、肘を壊してしまえば、その後の野球人生に大きな影響を与えます。
「休むこともトレーニングの一部」
これを大切にしながら、楽しく野球を続けていきましょう。
参考文献
- 日本臨床スポーツ医学会 野球障害予防検討委員会.
「青少年の野球障害予防のための提言」. 日本臨床スポーツ医学会雑誌. 2010;18(3):346-353. - 日本整形外科学会・日本臨床スポーツ医学会.
「青少年野球の障害予防に関する提言(改訂版)」. 2014. - Fleisig GS, Andrews JR, Cutter GR, et al.
Risk of serious injury for young baseball pitchers: a 10-year prospective study.
Am J Sports Med. 2011;39(2):253-257. - Olsen SJ 2nd, Fleisig GS, Dun S, et al.
Risk factors for shoulder and elbow injuries in adolescent baseball pitchers.
Am J Sports Med. 2006;34(6):905-912. - Major League Baseball & USA Baseball.Pitch Smart Guidelines. Updated 2021.
https://www.mlb.com/pitch-smart

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会