「転んだあと手首が痛い…実はレントゲンに映らない骨折があるんです」

「手をついて転んだだけ」「レントゲンでは骨折なし」と言われたけれど、痛みが続く手首…そんなときに見逃されやすいのが「舟状骨骨折(しゅうじょうこつこっせつ)」です。
今回は、レントゲンでは映らなかった骨折をMRIで発見できた実例をもとに、舟状骨骨折の特徴や、MRIの必要性についてお伝えします。
舟状骨ってどんな骨?
舟状骨は、手首の親指側にある小さな骨のひとつです。手首を動かすときに重要な役割を果たしており、骨折してもレントゲンに映りにくいという特徴があります。
特に小児では骨が柔らかく、骨化の途中であるため、通常のレントゲン検査で骨折がはっきり写らないことがあるのです。
こんなケースがありました
ある日、転倒して手をついた小学生の子供さんが来院されました。
- 手首に押すと痛いところが広く、少し腫れてもいました。
- レントゲンでははっきりとした骨折は確認できませんでした。
- しかし、痛みの場所と画像所見が一致しないため、MRI検査を実施しました。
その結果、舟状骨に骨折線と骨の中の腫れ(骨髄浮腫)を確認できました。
▼イメージ

舟状骨骨折が見逃されると…
舟状骨骨折は、診断が遅れると骨がくっつかない「偽関節」になるリスクがあるため、注意が必要です。特に中央部や根元のほうに骨折がある場合は血流が乏しく、治りにくくなる傾向があります。

治療と固定の期間について
舟状骨骨折は、折れた部位によって治りやすさと固定期間が異なります。
骨折部位 | 骨癒合率 | 固定期間の目安 | 特徴 |
---|---|---|---|
結節部 | 約90〜100% | 約4〜6週間 | 血流が豊富で治りやすい |
中央部 | 約80〜90% | 約6〜10週間 | 最も多く、長めの固定が必要 |
近位極 | 約50〜70% | 約10〜12週間 | 血流が乏しく偽関節リスクが高い |
なぜMRIが重要なのか?
MRIは、骨の内部の異常(骨髄の腫れ)や骨折線を詳細に描出できる検査です。以下のようなケースではMRIの併用が強く推奨されます。
- 痛みの範囲がレントゲン所見と合わないとき
- 骨折の疑いがあるが、レントゲンで異常が確認できないとき
- スポーツ復帰など、早期の判断が必要なとき
まとめ
舟状骨骨折は、子どもにも起こる可能性のある手首の骨折です。レントゲンで異常がなくても、痛みが強い・長引く場合はMRIでの精密検査が重要です。
当院では、見逃しを防ぐために、必要に応じてMRIを積極的に活用しています。手首の痛みがなかなか良くならない…そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。
📍中村整形外科皮フ科(津市)
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参考文献
- Murray PM, et al.
Scaphoid fractures: functional outcomes and treatment recommendations.
J Bone Joint Surg Am. 1988 Mar;70(3):345-9.
➤ 結節部骨折は比較的早期に癒合し、4〜6週の固定で良好な経過をたどることが多い。中央部骨折は6〜10週、近位極は12週以上の固定が必要とされる。 - Inoue G, Sakuma M.
The natural history of scaphoid non-union. Radiographical and clinical analysis in 102 cases.
Arch Orthop Trauma Surg. 1996;115(1):1–4.
➤ 中央部骨折の癒合率の低下と、近位極骨折における偽関節のリスクについて言及。近位極骨折では長期間のギプス固定や早期手術が推奨される。

執筆者中村 公一
院長 / 整形外科専門医
親切・思いやりの心を大切にし、整形外科の専門知識を活かして地域の皆様の健康を支えたいと考えております。お気軽にご相談ください。
- 経歴
- 津高等学校 卒業 / 富山大学薬学部 卒業 / 富山大学医学部 卒業 / 三重大学大学院医学系研究科 修了 / 三重大学附属病院 /名張市立病院 / 松阪市民病院 / 函館共愛会病院 / おおすが整形外科 / 元八事整形外科・形成外科 / ひのとり整形在宅クリニック など
- 保有資格
- 医学博士 / 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 / 日本整形外科学会認定 リウマチ医 / 日本整形外科学会認定 スポーツ医 / 日本整形外科学会認定 リハビリテーション医 / 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 / 日本関節病学会 Coolief 疼痛管理用高周波システム講習プログラム 修了 / 日本医師会認定 産業医 / 身体障害者福祉法指定医 / 難病指定医
- 所属学会
- 日本整形外科学会 / 日本関節病学会